2017年BEST MUSIC 60-51

60. Foxygen / Hang

Hang

Hang

 
Lemon Twigsなどのプロデュース業を経ての最新作。前作が良くも悪くも金返せ状態だった(思いは14の年間ベストで書いた)ので、今作には期待していたよ。トッド・ラングレンの色が濃かった前作からさらに自由に20世紀の遺産を借用して見せるそのあっけらかんとした態度。サイコーだぜ。豊潤な文化の繋ぎ手として披露される40人編成のオーケストラとお送りする一大ロックオペラ、ドゥワップ、グラムにバラッド…。そのウソ臭さの中に「アメリカに暮らしているなんてそれは死んでいるのと同じ」なんて放り込んでくるんだから、これはエンターテインメントの正しい在り方を示しているような気がする。げらげら笑いながら聴けるし、その後シリアスな気持ちにもなる。でもアルバムが流れている間には、とにかく楽しい気持ちがそこにある。充実の一品。

 

 

59. Yogee New Waves / WAVES

WAVES※通常盤(CD)

WAVES※通常盤(CD)

 
都会っ子の余裕。
 

 
 

58. Blue Hwaii / Tenderness

Tenderness

Tenderness

 
傑作だった前作『untogether』を評してこんなことを言っている。「そう、『untogether』である。ジャケットのふたりの歪な抱擁。それはuntogetherを表現することで、togetherへの憧憬と疑義を同時に提示し、そしてそれを作品一枚かけて再構築する試みへの入り口だ。そもそもこのラヴプロジェクトの関係性そのものが、声へのサウンド側からの絶対視をベースにしている。これはその絶妙な距離感だからこそ可能な音像であり、ややもするとこの距離感は現代だからこそ成立し、意味のあることなのかもしれない。」
 
今作ではその静謐さや反転への意思のようなものは後退し、ほとんどスムースハウスのような響きである。2人の関係性は変わってしまったのだろうが、それでもこのサウンド側からの声への信頼感はいまだ衰えることはなさそうだ。 オンライン上の関係性だけで制作することを目指したこのコンセプトアルバムが示すのは、インターネットが破壊した距離の概念に対する複雑な思いである。その中ではきっと、僕らの気付かないうちに、Tendernessの在り方も変わってきているのだろう。それは臆病さや自己保身とは袂を分かつことになっているのだろうか。
 

Blue Hawaii - Versus Game (Official Video)
 
 

57. The xx / I See You

I See You [輸入盤CD](YTCD161)

I See You [輸入盤CD](YTCD161)

 
ジェイミーの充実したソロ作『In Colour』を経てのバンドの最新作。そのことがしっかりと消化され、サウンドとして結実している。これまでのメランコリアや空間構築は大事にしつつも、大きく光が差し込むような展開がそこにはある。シングル「On Hold」におけるホール・アンド・オーツのサンプリングも楽しい。「I Dare You」のMVにはストレンジャー・シングスでおなじみのミリー・ボビー・ブラウンが出演。
 

 
 

56. Alvvays / Antisocialites

アンティソーシャライツ

アンティソーシャライツ

 
前作に収録されていた「Archie, Marry Me」で胸を射抜かれてから早3年。カナダの4人組の新作ででは相変わらずのギターポップなサウンドがかきならされている(ノーマン・ブレイクの名前がクレジットされている…!)そのジャングリーなギターはもとより、レイドバックした音像とは裏腹に前進する意志がちりばめられた歌詞を聞くに、彼女たちの視線は未来にあるとそう思う。
 


 

55. Calvin Harris / Funk Wav Bounces Vol.1

ファンク・ウェーヴ・バウンシズ Vol.1

ファンク・ウェーヴ・バウンシズ Vol.1

 
『ランダム・アクセス・メモリーズ』の続きが鳴っている…!の興奮もつかの間、夏以降のずっこけぶりはそりゃないぜ。それでもこの作品が優れていたことには変わりない。EDMにはあまり興味がないので…vol.1、信じていいのかね。
 

  
 

54. Lana Del Rey / Lust For Life

Lust For Life

Lust For Life

 
ラップ全盛の時代のポップミュージックの在り方の1つがサッドコアから笑顔と共に示されるとは。客演陣からのみならず多方面からの影響・引用を上手に咀嚼し表現している。その中でもフリート・ウッドマックのStevie Nicksは、抜群の存在感だった。ショーン・レノンとの楽曲は(もちろん良い曲なんだけど)まんまでほほえましい。
 

   
 

53. Father John Misty / Pure Comedy

Pure Comedy

Pure Comedy


皮肉も風刺も根付かないこの国において僕らはどんな顔をしてこの作品を聴くのだろうか。
 

 
  

52. Ibeyi / Ash

Ash [帯解説・ボーナストラック2曲収録 / 国内盤] (XL870CDJP)

Ash [帯解説・ボーナストラック2曲収録 / 国内盤] (XL870CDJP)

 
XL所属の双子ユニットの最新作。実体験に基づいて作られた全てのマイノリティに捧ぐ『Deathless』(カマシ・ワシントンが参加している!)、アメリカ大統領選挙期間に作られた「Ash」、そしてミシェル・オバマのスピーチからの引用…。自身のルーツ(キューバ系である)にも通じるサウンドとジェイムス・ブレイクオルタナR&B・ソウルからの参照点がよいバランスで組み上げられ、そこに政治的、社会的接点を持った否定からのそれでもが乗っている。
 

 
 

51. Takuro Okada / ノスタルジア

ノスタルジア

ノスタルジア

 
ex-森は生きているのフロントマンによるソロ1作目。情念を配した日本語のポップの在り方を模索する、刺激にあふれた1枚。そのタイトルがノスタルジア、である。かつて歴史学者でもあったアルベール・ロビダがその過去の集積から未来に想いを馳せ「20世紀」を上梓したように、ここには未来につながる過去への視点がある。
 

重ねられた生活 20180106~20180112

0106(Sat)

とてもしんどいことがあって、「嫌」以外の感情がわいてこない状態になっていた。自覚できる程に不機嫌な気持ちで過ごしていて、よくないことは分かっていたのだけれども、それでももう自分に抵抗する術はないようだった。
 
そんなことを知ってか知らずか、好きな人は僕を頼ってきて、頼ってしまったことの照れ隠しなのかなんなのか、僕の名前を呼んだそばからすぐに脱力して笑うものだから、僕も思わず柔らかくなってしまう。ありがとうございますと言って去っていく気配を背中に感じながら、他でもない自分のために、少なくとも今しばらくはこの人を離してはいけないと強く感じた。そのエゴの是非については保留にして、ひとまずその思いを大事にしまっておくことにする。
 
夜にその人が待つところへ向かいながら、うそみたいな熱量のPlease Stay Like Thisの申し出こそ確かにあって、僕だって別に気持ちがするするとしぼんでしまうほどできた人間でもないから、努めてそうであろうとしているわけだけれども、一方でそんなことは可能なのか?という思いがあることを考えていた。利用価値がある、と思われているのかもしれないし、そうだとしても自分もさっき似たようなことを思ったわけで、それ自体は全く問題ない。この状態については少しの胸の痛みにさえ耐えられれば、十分に心地が良い関係性ともいえる。だけど、よく分からないというのが本音だ。はっきりさせようとしたのに、混沌としてきたともいえる。あるいはもうはっきりとしているのにもかかわらず、色とりどりの思いがそれを邪魔しているだけなのかもしれない。というかそれがたぶん正解なのだ。それでも壁に寄り掛かって待つその姿を僕が視界にとらえて、あなたがこちらに気づいて笑う時、僕はまたよく分からなくなってしまう。ティーンエイジャーの頃のそれなんて、いつも感情だけでドライヴできたのに。8年の代償。愛が、先だったから。
 
 

0107(Sun)

広い空と山にかかる雲、大きくてクリアブルーがまぶしい海。それがその人が暮らしていた風景だった。見せてくれたその写真たちを前に僕は少し泣いてしまいそうなほど感動していた。僕の思い出の中にある幼少期を過ごした場所、引っ越した先、祖父母が暮らした土地、学生時代を過ごした街…そうしたもののうちどれを切り取ってもその写真とは似ても似つかなかった。僕は自分が過ごしたもろもろの街が自分を「育てた」とは思っていなくて(産んだ、とは思っている)、トーキョーに育てられたつもりでいるのだけれども、対照的にその写真の中の風景は確かに彼女を「育てた」のであろうということがすぐに分かった。この人には根っこがある。根があるからこその軽さ、その正しさのようなものに畏敬の念に近いものを抱く。わりといいところですよ、案内はまかせてくださいねという声を反芻しながら仕事を片づけていく。おかしいな、ちゅうぶらりんなはずの僕は、もっとずっと重たいよ。それはどこかに根をはろうとしているからなのかもしれないな。そんなことを思う。
 
部屋に戻って『THIS IS US』を見進める。感謝祭のエピソード、すさまじく良かった。家族は最初から家族なわけではなくて、家族に「なる」のだ。
 
 

0108(Mon)

自分の人生についてまわっていた厄介事の1つを金と根性とで解決することにした。何もしなければこの先奪われ続けるであろうあれやこれをこの手に収めておくためだ。どのくらい時間がかかるか分からないけれど、はじめなければどんどん決着が遅くなるだけなので…。がんばるぞ。
 
 

0109(Tue)

次の日取りが決まった。でも、伝えてしまったあとのお出かけはむつかしいよねえ、と自分に語りかけながら次の場所をいろいろと考えている。まあもう肩肘張ってもしゃあないんだけど、相手の時間をもらうんだから、それなりの…ねえ。そんなこんなで夜風に吹かれながら、2人で何事もなかったかのようにまた話し合っている。でも、確かに何事かはあったのだ。それはたぶん2人にしか分からないことなのだけれども。
 
頼みごとを、おそらく彼女が思っている以上に良い形でかなえてあげることができた。やったあ!と子どものように喜ぶ姿を見て笑ってしまう。はっとした後に「ふふふ、こういうところですよね~」と首をすくめるその姿に、「こういう(そういう)ところが」という言葉のあとに続くのは僕とあなたで異なるのだろうなと思いながら、そのままでいいんじゃないと答えては街の方へと目を移す。僕たちはうまくやれるはず、という言葉を何度か飲み込む。僕は本来「普通である」はずのことにいちいち心を動かし過ぎなのだという戒めを添えて。この人と過ごすほどに、君は本当にすごい存在だったのだなと感じる。同時に自分もなかなかすごかったのではないかと最近は思うようになってきた。
 
少しの具合の悪さを感じて、身の回りのこともそこそこにベッドにもぐりこむ。何も起きないことが良いことではなく、良いことが起こることが良いことであると感じられる人生を生きられるようにと願いながら眠った。

0110(Wed)

辛い1日だった。いつもの場所へ向かって、大変だったねと声をかける。平気なわけないのに、まあこんな日もありますよと言うあなたを前に心がぐしゃぐしゃになってしまいそうになる。いろいろ話をして、別れ際にようやくぼそっと弱音を吐いてくれて安堵する。部屋に戻ってからも話は続いて、お互いにあなたがいるからを交換し合う。湯船につかって、関係性への名づけの欲求を打ち消してはぼうっとする。そうして、やはりこの人を離してはいけないなという思いを新たにする。もちろん、だからといって今の僕にできることはないのだけれども。
 
勉強をしなければいけないことがたくさんあるのだけれども、今は心の許容量が限界にきているので、部屋にいる間はドラマを見ているか年間ベストの記事を書いている。どうにもこうにも、嫌なことが多すぎるのだ。
 
 

0111(Thu)

自分の口から出ている内容が、あまり良いものではなかった。その自覚があったからというわけではないけれど、贖罪のようなことをしながら過ごす。なんかここ数日で老けましたね、みたいなことを言われて、ああ他人から見ても分かるくらいには弱ってんだなあと思う。ほんと年が明けてからはロクなことがない。胃もキリキリと痛んでいる。
 
年末にサニーデイのDVDを手に入れているがまだ見ていない。あのライヴは本当に素晴らしかったので、こちらの心のコンディションも良い時に観たいなと思っているからだ。そういえば…思うところがあって、そのDVDを買うにあたっては実際の店舗に足を運んだ。ターミナル駅の大型のショップを選んだのだけれども、足を踏み入れて、その「点」でしかないあまりに狭い展開と雰囲気にショックを受けたことを記しておこう。すっかり足が遠のいていた自分に何かを言う資格はないのだけれども、本当に「終わり」なのだなと単純に感じたのだ。その昔、世界はここにあるとあんなにも興奮していたのに。それが見る影もなかったことがとても寂しかった。でも、新しい時代の流れそのものは大歓迎なので、まあ大型資本のそれは役目を終えたってことなのかもね。年の瀬で駅前はすごい賑わいだったから、余計にそんな思いに駆られたのだった。

 

0112(Fri)

年間ベストのラインナップが決まった。結局65枚になってしまった…。あとは並びを詰めたらゴーである。というわけで別枠として(国内の)よかったシングルの話をざざざとしておこう。小沢健二「流動体について」これのおさめどころが分かってから、過去の音源についても聞こえ方ががらっと変わって、とにかく僕にとっては影響が大きな1曲だった。ミツメ「エスパー」現時点でキャリア最良の1曲でしょう。カップリングの「青い月」含めて、大変素晴らしいです。シャムキャッツ「このままがいいね」別な響き方をしてくれたら良かったのに、という個人的な事情はさておいて、『Friends Again』と地続きではありながら『Friends Again』の中では鳴らないであろう音だった。すごい。欅坂46「風に吹かれても」表題曲で興味を持った、というのもあるのだけれども、何よりも宇多田ヒカル「Movin' On Without You」的なAメロで始まるカップリング「避雷針」がMV含めて特によかった。ブリブリとしたベースと転調多用の曲展開、そしてサビが2回だけというポップスとしては希なそっけなさもそうだし、悪意からの避雷針を買って出たうえで自由にしたらいいさと言いつつも「平凡な日々を今約束しよう」ってずいぶんと悪意のある言葉じゃないか?というラストも琴線に触れた。もちろんいくらでも裏は返せるのだけれども。
 

欅坂46 『避雷針』 (Keyakizaka46 - Hiraishin) MV
まあこれは最後の泥の中のダンスがあってこそなので…アレなんですが。

ちなみに年間ベストは海外が55枚、国内が10枚の計65枚。
 
思い出したので全然関係ない話を記しておく。数か月前に足の指を怪我してかなり腫れたんだけど、まあ治るだろうと放置してた。で、実際いつの間にか腫れも引いて忘れていたのだけれども、最近またそこが少し痛むようになってきている。見ると腫れもあって心なしか色も悪いような気がしている。たぶん、折れたかひびが入っていたかしていたのだと思う。まいったなと思いつつ、まあなんとかなるだろうとも思っている。自分のことについては本当にいい加減だ。今週はここまで。