2017年BEST MUSIC 10-1

10. SZA / Ctrl

Ctrl

Ctrl

   
TDEの紅一点、SZAの1stフルレンス。ムーディなオルタナR&B、ヒップホップ、ネオソウルの快作。シンガーとしてだけでなく、ソングライターとしても素晴らしい。収録曲「The Weekend」のリミックスで、『Funk Wav Bounces』はちゃんと続いていたことが確認できるというオマケつきである。(だがそれも、年が明けてからのカルヴィンの発言で夢と消えるのだが)
 

 
 

9. Lorde / Melodrama

Melodrama

Melodrama

 
ときどき自分は女の子なんじゃないかと思うことがあって(それは正確に言えば、だれしもに男の部分と女の部分とそのどちらでもない部分があって、身体的・機能的な性別とはまた別に、マインドの部分でどちらが大きくなるのかという話で、それは日によるし、もっといえば時と場合による)、それは女の子に向けられた作品にどうしようもなく胸を打たれるときに、強く感じる。
 
ポップスターとなったことを引き受けつつさらりとその舞台から降りてきて、女の子たち(そしてそれはインスタ映えしない市井の女の子たちにだ)に語りかける。それが前作と比較して大きく陽性の輝きを放っているトラックに乗ったとしても陳腐にならないそのリリシストとしての才覚、誠実さ、正しさのようなものを聴くにつれ、僕は女の子たちの尊さやしんどさ…そういったものを思い、やはり僕は男であり、彼女たちにはかなわないなとそう思うのであった。でもそんなつまらないものを超越したところから、どうしようもなさすぎてメロドラマのようにすら思える日常において―かつて人生はクローズアップで見れば悲劇、ロングショットで見れば喜劇だとチャップリンは語ったが―理想の場所は何処にある?とLordeは問う。その重さを、受け止めきれるだろうか。
 

Lorde - Perfect Places
 

 
 

8. サニーデイ・サービス / Popcorn Ballads

Popcorn Ballads

Popcorn Ballads

  
この国における2017年最良のラップ/ファンク/ポップアルバム。トラップも聞こえる。それでいて日本にもようやくサブスクリション元年が訪れたことを告げるエポックな1作。ずっと信じてきたアーティストがこうして海外とも共振しながら第一線でやってくれていることに喜びを感じる。当初配信のみであったこの音源は、幾度もバージョンアップを重ね、フィジカルでのリリースを機に曲順も入れ替え、新曲を交えた全25曲の「完成版」としてドロップされた。様々なジャンルの混交が見られる2017年のポップミュージックが詰まった作品であり、そのリリースの形態から考えてもそれぞれの気にいったところを…という聴き方ができるはずなのに、区切りを示す針の音、disc2のラストにrepriseとしてのトラックが入っているということ、そしてフィジカルリリースというモノを通しての体験が1つの完成であり、そこからそれぞれの物語が始まっていくという流れは、まさに「アルバム」然としているといえ、僕はそこにどうしようもない愛着を覚えてしまう。そしてこの2枚組がこの雑多な内容でありながらアルバムとしての強度を保っている(そしてそれはホワイトアルバム的なものとも異なっている)のは、何よりも曽我部氏の「うた」のおかげなのではないかと思えてくる。傑作である前作『Dance To You』の方がメロディとしては歌心にあふれているが、今作でその「うた」について感じるというのも面白いものである。客演のメンバーのパフォーマンスも素晴らしく、disc2のハイライトである「はつこい」では我らが泉まくらが"らしい"フロウを聞かせてくれている。サニーデイは2018年3月にはさらに新作のリリースが控えている。時代だ。
 

Sunny Day Service - クリスマス【official video】
 

 
 

7. St.vincent / MASSEDUCTION

マスセダクション

マスセダクション

 
せいけんのふはい!せいけんのふはい!はい!!異質であることを隠さなかったポップスター達が時代の転換期に次々とその役目を終えたとばかりにこの世を去る中で、前作のアートワークで玉座についたアニー・クラークは、 そのバトンをいざ引き継がんとフェティッシュな衣装に身を包み、ストレンジなギターをかきならす。作品ごとに過去の自分を更新していく女王に「Fear The Future」なんて言われたら僕達シュガーボーイはああ!どうしたら~。(これを書いているのは2018年になってからなのだが、実はこの作品は2018年の作品だったのではないのかと思っている。僕はいったい何を言っているんだ?18年の年末に振り返った時に、どうなるか見てみよう)
 

 
 

6. Alfa Mist / Antiphon

Antiphon [日本限定盤/ボーナストラックのダウンロード・コードつき]

Antiphon [日本限定盤/ボーナストラックのダウンロード・コードつき]

 
UKはイーストロンドンの新鋭。盛り上がりを見せるサウスロンドンのサウンドとはまた異なったヒップホップや昨今のネオソウルの流れをくんだジャズミュージック。オールタイムフェイバリットにはJ Dillaなどを挙げていることから音楽性は想像できるだろうか。ジャズソウルの潮流で聴くことも可能だが、跳ねるようなスネアの先にはもっと広大な奥行きが広がっている。


Alfa Mist - Keep On | 4K Mahogany Session

  
  
 

5. The Big Moon / Love In The 4th Dimension

ラヴ・イン・ザ・フォース・ディメンション

ラヴ・イン・ザ・フォース・ディメンション

 
何度でも言うけど、やっぱりさ、このたたずまいと面構えが最高じゃない?ロンドンの女の子4人組から放たれる目覚めの一撃。メロディアスでエモーショナル。ポップ黎明期のガールズグループのようなコーラスワークが琴線に。遠吠えや(アオー!)、ヴォーカルの声の切れ端がよい。くぐもった録音も実によい。とにかく全部良い。ロマンだ。
 

The Big Moon - Cupid
 

The Big Moon - Silent Movie Susie
 
 
 
  

4. Equiknoxx / Colón Man

Colón Man

Colón Man

 
ジャマイカのダンスホールデュオによる新作。ところどころにインダストリアルで不穏な響きを交えながらもそれはまごうことなきダンスミュージックとして鳴っている。ジャマイカの物語に登場するパナマ運河建設に関わった労働者からとられたタイトルが、ジャマイカの音楽の歴史をそして自らの革新の歩みを表しているという。なるほど、わからん。
 

  
    

3. Suplington / Repeating Flowers

Repeating Flowers

Repeating Flowers

 
一時期レーベル投げ銭(そんな言葉あるのか)するほど好きだったCult Classic Recordsから発表された13年の『Risky Times』からファンになった、ロンドンのNakula Foggによるプロジェクトの新作。リリースはYoung bloodsから。ヒップホップ要素はほとんどなくなり、上質なアンビエント空間が続く。トライバルなビートが聴こえる瞬間もあるけれど、土着のそれはフィールドレコーディングされたと思しき音たちや浮遊感がありながら現実性とリンクしている上モノとよくマッチしている。考えてみれば自然というのはその連綿と続く歴史(それは過去にも未来にも伸びている)の中にミニマルなものを宿している。そのことに気づかせてくれる主題であり、音像である。花の成長や雲の流れなどを早送りの映像で見せられるとき、僕は神々しさと静謐さをそこに覚えるが、この作品はその心もちのサウンドトラックともいえる仕上がりになっている。
 

 
  

2. Aldous Harding / Party

Party

Party

 
はじめて聞いた時、Benjamin Wetherillのようだなと思った。極めて音数が少ないのに迫力がすごい。鬼気迫るような絶唱というわけでもなく、抑制の効いた歌唱であるにも関わらずこの情報量である。きっとそれは彼女の表現が死生観など人間の根源的な部分によって立つものであるところからきているのだろう。いわばスタイルではなくアティチュードとしてのゴス。最初の一音から最後に薄く差し込まれるストリングスまで、静謐さと気品にあふれている。
 

Aldous Harding - Imagining My Man (Official Video)
 

 
 

1. Loyle Carner / Yesterday's Gone

Yesterday's Gone

Yesterday's Gone

 
サウスロンドン出身のグライムも90年代のUSヒップホップも飲み込んだ新世代ラッパー。ジャズやソウルを下地にしたムードと語るようなフロウは自身が触れてきた音楽に忠実で誠実である。そしてクウェズの参加が全体のムードに色を加えている。母親と継父が登場するラスト曲、そしてジャケットに顕著なように、全編通して家族の肖像が描かれている。家族というものに疑義を抱き続けたこの数年を経て、いろんな人の家族になりたいとそう思い始めた僕にとって、意味のある響き方をした1枚だった。
 

 

2017年BEST MUSIC 20-11

20. Spoon / Hot Thoughts

Hot Thoughts

Hot Thoughts

 
今「ロックバンドであること」に意識的でそこを更新していこうとしているのは彼らだけなのではないかとすら思える。そしてその取り組みはきっと他の追随を許さないところまで来ている。相変わらずのチャンネル振り分け、ソリッドなギター、そしてミニマルなリズム隊…そうした鳴りを意識したソウル・ロックなソングライティングはそのままに、他ジャンルからの要素を引き受けていく懐の広さ。それでいてそのフィジカル性は明らかにロックバンドのそれであり、彼らの誠実さの表れだ。未来はひょっとしてここにあるのか?
 
 
 
 

19. 泉まくら / 雪と砂

雪と砂

雪と砂


盟友であったnagacoにトータルプロデュースを託した前作から4ヶ月足らずでの新作。歌と語りとラップの間を揺れ動きながら抜き差しならない日常と都市の寂寥感を切り取っていく。15年のベストディスクの際に『愛ならば知っている』の項で「何者でもない若者たちの、日々の悲喜こもごもを泉まくらは語り続ける。棄てるなどしていたころから、あるいは卒業までにうとうととしていたそのころから、空虚さを展開することで逆説的にその関係性の濃密さを射抜いていた。そこをていねいに描き続けること、何者でもないことを真正面から受け止め続けること、そのことがお仕着せではない希望になっていくはずだ。」なんて書いたけれど、彼女はあの頃よりも抽象度の高まった表現を用いながら反転して僕らに本当のことを突き付けてくる。関係や感情が刹那的であってもそれを愛と呼ぶ勇気はあるか、と。
ラスト2曲「砂の城」「SNOW」はとてもよく、アルバム通しての最良の瞬間は幕が下りる寸前の「最後には優しくなって すべてがつまらなくなるなら 強くなれなんて言葉 鵜呑みにできないはず」というパンチラインに宿っている。
 

泉まくら 『SNOW』 pro. by nagaco
 

 
 

18. Jlin / Black Origami

BLACK ORIGAMI

BLACK ORIGAMI

   
折り紙の自由さと完成されたもの(それはきっと常に未完のものだとも言えないだろうか)のテクスチャーというものは、このJlinという作家そのものと、その手で生み落とされたアフロ・トライバルなパーカッションサウンドを言い表すのにベストな選択肢であるように思える。メロディーのほとんどないこのダンス・ミュージックを前に、音楽の根源的な意味を考える。
 

 
 

17. King Krule / The Ooz

The Ooz [解説・歌詞対訳 /国内盤] (XL872CDJP)

The Ooz [解説・歌詞対訳 /国内盤] (XL872CDJP)

 
声の才能。デビューしてから一貫して彼にしかならせない夜の音楽を鳴らしている。無駄を一切省いたストイックなサウンド。ポストダブステップからの大きな潮流には位置しつつもどこにも属さない、ジャンル・king kruleとも呼ぶべきその佇まいに息をのむ。
 

 
 

16. Cornelius / Mellow Waves

Mellow Waves

Mellow Waves

 
11年ぶりのアルバム(とはいえ様々なプロジェクトで活動は続けていたわけで、そこまで開いていたのかという感覚もあるにはある)は、メロウなテクスチャーをもった刺激的な1枚。オープナー、坂本慎太郎の作詞によるモダンブルーズ『あなたがいるなら』を聴き終えたときに押し寄せた感動は、忘れられない。音、言葉、すべての要素が僕の聴きたい音楽そのものだったからだ。こんなにもロマンティックで、でも平熱のラブソングがあるなんて。「あなたがいるなら このよは まだましだな」だなんて、言ってみたかった。(これはボウイのことを言っているらしいのだけれども)
その興奮とは別に、四方八方から聴こえる音のシャワーを浴びながら、きっとみんな中心を失うということが怖いのだろう、でもそんなものはじめからなかったのではないのか?と僕は思うのだった。そういうことを考えさせる音の輪郭がここにはあって、どうしようもなく琴線に触れまくるのだった。
 

Cornelius - 『あなたがいるなら』"If You're Here"
 

 
 

15. J HUS / Common Sense

Common Sense

Common Sense

 
本当に17年のロンドンは楽しかった。イーストロンドンのグライムラッパーによる1st。アフロポップにダンスホールレゲエ…それらの例をあげるまでもなく、真に自由な作品だ。
 
  
 
 

14. Clap! Clap! / A Thousands Skies

A Thousand Skies

A Thousand Skies

 
前作でブレイクを果たしたイタリア人トラックメイカーによるエキゾチカビート第2幕。今度はコズミックなサウンドを携えて、星空を越えて宇宙まで…といったたたずまいだけれども、なるほど夜空とひと口に言っても都市のそれと山奥のそれでは全然違うもんね。タイトル通りの一品。
 

     
 

13. シャムキャッツ / Friends Again

Friends Again

Friends Again

 
バンドサウンドの希求であった『マイガール』『君の街にも雨が降るのかい?』を経て、驚くほどに肩の力が抜けたポップソング集が世に放たれた。日本のリアルエステイトとも形容できるようなネオアコサウンド、バーズのようなキラキラとしたギターの音色。一方でリズム隊はたしかに前述のバンドサウンドを通過した力強さで全体を頼もしく牽引する。作品を貫くのは優しさと慈愛の視線で、「沈む故郷くらい 大したことないじゃんと思えるから不思議さ」なんて歌詞を故郷を失った者が「まあそうだよね」と聴けてしまうような、そんな温度がある。『Friends Again』という主題と共に、収録曲「Coyote」は徹頭徹尾(そうMVでさえも!)自分のことだと思ったけれど、本当は誰もが誰かのことを想っていて、ただそれだけなのに、いやもしかするとそれだけだからすれ違いつづけるのかもなとも感じるのだった。遠くの誰かを思って「きっと元気でいるね」、どうしようもなさを前にして「いつも通りやるだけ」そんな抑制のきいたエモーションを内側に飼いならす市井の人々に幸多からんことを。
 

シャムキャッツ - Coyote (Music Video)
 

 
  

12. Vince Staples / Big Fish Theory

Big Fish Theory [Explicit]

Big Fish Theory [Explicit]

 
クールなトラックとリリックから漂うのは現状への疑義と自由への野心。過去にはジェイムスブレイクを招へいするなどしていたように、エレクトロ・ソウルへの接近もみられる。それでいて、これは確かにラップ・アルバムである!
  

 
 

11. Dirty Projectors / Dirty Projectors

Dirty Projectors

Dirty Projectors

 
ついにメンバーも1人になってしまい、いよいよバンドではなくプロジェクトとしての側面が強くなった7枚目。そしてそのタイミングでセルフタイトルである。実験精神が高度なポップソングとして結実。ジャンルレスに多様でありながら整然と居並ぶ楽曲たちは、その実験精神が彼自身を押し進めてきたからこそたどり着いた未来であり、折衷こそが「ロック」であったと考える僕のような人間にとってはこの傷心アルバムは福音であった。タイヨンダイやソランジュらが参加している。グレイト。