2016年12月15日の断片日記

▼君の味方だと言ったその口で君をののしる男の言葉に、男の存在に、いったいどれほどの価値があるだろうかと考える。傷つけた相手のことを思いやるふりをして自分がかわいいだけだということが顔をのぞかせる。その顔は、部屋の中で睨みあう二人のうち、入り口側に近いその男の背後から事の成り行きを眺めていた。相対した女の眼には言葉に対するはっきりとした混乱が浮かんでいる。彼女には奴の顔が見えていないようだった。男は視線こそ前を見据えながら、背後の自己憐憫的な感情をけん制していた。しかし、彼女のとある行動を境にあっという間に飲み込まれる。せきを切ってしまった男には、もはやそんなところに抵抗する力はみじんも残っていないようだった。
 
 
▼家に入ってきた黒い塊が男を殺す夢を見て、ぐったりとした寝起きに予兆はあった。繊細さと臆病さの同居した生活によって沈澱していくものは自分が思っている以上に酷い色で、またそれは簡単に消えるようなものではないようだった。あの黒い塊は自分だったのだと、断りもなく冬になってしまった坂道を歩きながら男は思う。眼鏡が曇る。このまま視界が遮られれば、あるいは今より、あるいは昔のように、見ることができるようになるのだろうか。この4日で3kg体重が落ちて、2回泣いて、1回善意で泣かせて、1回悪意で泣かせた。コートのポケットの中で指を折る。わきあがる渇いた笑いをかみ殺す。「いったい何をしてるんだ、僕は。」


▼ぼろぼろと大粒の涙をこぼした女の前で、君がいないと俺はだめだと男はつぶやく。こんな場面で言うはずじゃなかったのに、と思いながら。慰め、頭をなでる彼の手を、女は1度受け入れ、2度目は振り払った。奴をその視界が捉えたということなのだろう。時間が2人を引き裂いて、泣きやんだ男女は「僕ら嫌いあってるわけでもないのにうまくいかないね」と笑い合う。笑い合うという言葉からは最も遠い表情で。その一部始終を、僕はただ黙って流されるまま見続けることしかできなかった。


▼「あなたは正しい それでもやっぱり 私だって正しい そんな喧嘩もできなくなるの 春なんてこなければいい」まったくだと思う。でも、かつて君だけが正しい季節がそこにはあった。いつまでも君だけが正しければよかったのに。