2017年1月7日の断片日記

▼朝に目が覚めたら、もっと罪悪感にさいなまれるかと思っていた。それがうっすらと横たわっているのは感じるけれど、コンフューズをもよおすものでもなければ、攻撃的な気持ちになるでもなかった。喪失感といえばそうなのかもしれないけれど、もともとが空洞だったとして、いったい何を失ったというのだろうか?気づいてしまった、というその当惑に、他でもない自分がただただついていけていないだけなのではないかとさえ思えてくる。あたたかい飲み物を口にする。このあたたかさだけは、いつも確かだ。
 
 
▼フィジカルの要請を久しぶりに無視して朝の光の中をぐんぐん進む。そうしてしまうこと、そうしてしまったことの意味を考える。考えている。ずっと考え続けている。だがそれも、公の場に出た途端にばちんと断ち切られる。喧騒。癇に障る声。その他いろいろだ。頼んでもいないのに厄介事は向こうから飛び込んでくる。放っておいてほしいだけなのに。
 
 
▼それでも…11歳と、生物の生存戦略としての進化と人間の文化・文明の発達を目的とした進化の違いについて話す。僕は人間って面白いねと言い、彼は生物ってすごいですねと言う。やはりここは…素晴らしい場所だ。身を粉にする価値もある。それは分かっているのだけれども。
 
 
▼帰り道。僕とすれ違う彼や彼女らはそれぞれに別の時間を生きていて、見えているものも違うのだということを考える。本当にいろんなことを考えている。言葉になったものは、なったその瞬間に消えたり形を変えたりする。言葉にならなかったものは何になるのだろうか。乗るわけでもないバスの行き先表示をぼんやり眺める。朝に無視をしたせいか、フィジカルが静かだ。だからというわけではないが、君の街ではないこの場所で、君であったものの姿を追う。
 
 
▼視線を感じる。レンガの女が手を振っている。駆け寄る、歩み寄る。おそらく話したかったのであろう話を懲りずにうんうんと聴く。手を取られる。サインペンがカバンから出てくる。描かれた線が、笑い顔になる。途端に僕の身体の一部だけが、心の裏側の表情になったようだった。元気出せよ、と言ったのはレンガかスマイルか。どちらでも良かった。立ち去る姿を見送りながら、僕にとって、やはり君がミューズであったというその事実を受け取りなおし、なんとなく嬉しくなる。魔法がとけたあとに必要なものがいくつかある。その一つはきっと新たな魔法なのだろう。それでも、僕にかけられた魔法はとけるどころかいまだに僕を祝福し続けている。「きみがいないことは きみがいることだなぁ」まったくだよ、本当に。
 
 
▼部屋に向かう速度を上げる。冷え込みが一段増す。今まで静かにしていたフィジカルが憎まれ口をたたく。曰く、「全部、お兄さんの世界で起きてることっすよ」確かにそれはわたしの世界の話であって、外の世界とは何の関係もない。でも僕は思う。それはとても大切なことなのではないかと。スマイルを書かれたせいか心なしかフィジカルが上機嫌だ。僕の方は、それが紡いだ別の物語を反芻し口角を上げる。これもまた、祈りの一つの形だろうなどと考えながら。