2017年BEST MUSIC 40-31
40. Japanese Breakfast / Soft Sounds from Another Planet
- アーティスト: JAPANESE BREAKFAST
- 出版社/メーカー: DEAO
- 発売日: 2017/07/21
- メディア: CD
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かつて哲学の始まりが宇宙と繋がっていたように、内省を極めるとSFにたどり着くのだろうかとそんなことを考える。母の死を乗り越えて立ち直っていく様を描く喪失と修復のドキュメント。そこにただようメランコリアは、だれしもが抱く人生への諦念と「それでも」に連なる意志から放たれるものであり、だからこそ聴き手の胸を打つ。
39. Beck / Colors
- アーティスト: BECK
- 出版社/メーカー: CAPITOL RECORDS
- 発売日: 2017/10/13
- メディア: CD
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僕が海外の音楽に触れ始めた頃というのは何の手段も持たない田舎の子供だったから、自分が何をなぜ聴いているのかもよく分からなくって、それでもここではないどこかへの憧憬だけで興奮して夢中になっていた。あの頃、音楽誌などのキュレーターを通過せずに文脈もなにもなく聴いていたことをとてもよかったと思いつつコンプレックスでもあったりする。大学生になったときに(後に浮浪者のようになって留年していくことになる)山形出身の彼が「君が好きなのはオルタナだぞ」と『Odelay』を貸してくれた(『Mellon Collie And The Infinite Sadness』もだった)のがBeckとの出会いだった。そんなことを今作を驚きとともに楽しく聴いているときに思い出したのは、今作が紛れもなくオルタナティブであるからだ。そしてそれはたとえば90年代にその言葉が意味していたこととも少し趣が異なっている。レノン=マッカートニー体制の再構築にせよ、その多層的な楽曲構成にせよ、カウンターという枠組みではなく「メイン」を喪失した時代におけるオルタナティブとして機能している。それがこれだけポップに響いてくるのだから、さすがとしか言いようがない。
38. Daniel Caesar / Freudian
- アーティスト: Daniel Caesar
- 出版社/メーカー: Golden Child Recordings
- 発売日: 2017/08/25
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カナダのオルタナR&Bシンガー、待望のフルレンス。14年のEPをSound Cloudで聴いて以来楽しみにしていた。期待通りのムーディな1品。Kali Uchis、Sydら客演陣との相性も抜群だった。
37. Chaz Bundick meets Mattson Two / Star Stuff
- アーティスト: Chaz Meets the M Bundick
- 出版社/メーカー: Company Records
- 発売日: 2017/03/31
- メディア: CD
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我らがMattson TwoのトロイモアことChaz Bundrickとのコラボ作。いつものインプロ感はいくぶん後退し、かちっとした作品に仕上がっている。歌モノ。レイ・バービーとの作品ときのような爆発力こそないが、不思議な魅力のある1作。
36. 欅坂46 / 真っ白なものは汚したくなる
- アーティスト: 欅坂46
- 出版社/メーカー: Sony Music Labels Inc.
- 発売日: 2017/07/19
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繰り返される「大人」という言葉は記号でしかなく、本質的にはこの国に蔓延する同調圧力と、それによって内部から蝕まれ老朽化したシステムや慣習などを指す。「大人」が消失した現代においては、抵抗はそこへ向けられてしかるべきものである。その表現の構造がどうであれ、不寛容な時代に風穴を開けるべくキッズ(古さとステレオタイプを大いに感じさせる言葉たちは、だからこそ表面的にはシンプルな意味内容だけを持つようになり、彼らへと伝播するのだろう)を啓蒙する姿勢は閉じて行く時代とこの国においては賞賛されるべきものだろうと「サイレントマジョリティー」における平手の先導を見て思うのだった(だがかつてジャンヌ・ダルクはどうなった?)一方で彼女たちが座しているのがアイドルという大文字の物語と偶像の世界であるというのがまた問題を複雑にしている。そう、「イメージを越えた」先にあるのは、結局はありふれた物語の範疇ではないのか…?それぞれが別の方向を見ながら1つのフォーマットに収まろうとするときに生じる歪みのようなものを、彼女たちを取り巻く「大人」たちはある種の美談としてプロデュースしそのドキュメントを見せることに成功していると考え、観客もまたその仕掛けの中に知らず知らずのうちに組み込まれているが、それそのものが本来彼女たちが破壊すべき対象ともいえる。望まれたように悲鳴なんか上げない(それは行動せよ、とのメッセージだ)と自らを鼓舞し続けた結果の「自我」によって、構造と駆動のパワーバランスが多重に崩れていくなかで、見えてくるものは何だろうか。
それぞれがそれぞれのために歌い、踊ること。アイドルになりたくて動き始めた彼女たちではあるが、その先(あるいは根底)には自由を希求する想いや自らを表現したいという欲求がなかったか。このプロジェクトは、状況を誰もコントロールできなくなってからが勝負だろうと思う。その時にそれぞれがこのフォーマットを維持しながらどこへ歩き出すのか。あるいは崩壊、もしくはスポイルされてしまうのか。この「アルバム」とはいえない(これはプレイリスト、だろう。時代とは別のところで時代と同期してしまっている)マテリアルが彼女たちの革命が自身を取り巻く状況だけではなく彼女たち自身をも越えて行く、そんなブレイクスルー前夜の苦しみとして記録されるのか、それとも終わりがあらかじめ決まっていたが故の興行として記憶されるのかは、歴史が語ることである。
35. Syd / Fin
- アーティスト: Syd
- 出版社/メーカー: Imports
- 発売日: 2017/02/24
- メディア: CD
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いわゆる「性愛」に対する疑義が一般的になってきたとはいえ、それは愛に対する不安と、あるいはその曖昧な名づけによって隠ぺいされてきた何かをさらに奥底へと追いやってしまうような感情と極めて近いところにあり、だから一層問題を厄介なものとしている。人を一人の人として認めること。そのことを思うとき、sydの言葉が聞こえてくる。過剰さは排され、 ただひたすらに甘くメロウでモダンな夜の音楽。ジャンルを静かに横断する様と本人の佇まい、2017年が手にしたがった多様性の1つがここにある。
34. Laurel Halo / Dust
Dust [帯解説・ボーナストラック収録 / 国内盤] (BRC551)
- アーティスト: LAUREL HALO,ローレル・ヘイロー
- 出版社/メーカー: BEAT RECORDS / HYPERDUB
- 発売日: 2017/06/23
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1st以来のヴォーカル作品(日本語の歌唱も聞ける)だが、それよりもフリージャズ的なインプロサウンドやパーカッションの鳴りがとても魅力的。ジャンルレスで不思議なポップチューン「Moontalk」を境にした後半でどんどん内省的になっていくのがよい。
33. フレンズ / プチタウン
- アーティスト: フレンズ
- 出版社/メーカー: ピマラヤレコーズ
- 発売日: 2017/11/22
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20代のためのカラフルパーティーポップ。シティが究極的には文化を指すのであれば、タウンはもっともっと個によった風景だ。そこで描かれる悲喜こもごもを躁状態の音に乗せて行く。神泉系バンド、今作も切なく楽しい。竹内電気はこれをやらなければいけなかったのかもしれないね。そして30代の憂鬱な男の恋路も「夜にダンス」「夜明けのメモリー」に続く夜の3部作「NIGHT TOWN」とナイアガラなキラーチューン「原宿午後6時」によって性懲りもなく彩られたのだった。ちなみに"この"恋の始まりは「代官山午後6時」でした。こちらからは以上です。
フレンズ「原宿午後6時」
32. DYGL / Say Goodbye to Memory Den
- アーティスト: DYGL
- 出版社/メーカー: HARDENOUGH
- 発売日: 2017/04/19
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ティーンネイジャーの頃にThe Strokesが登場してくれてよかった。僕はかつてジュリアン・カサブランカスになりたがっていたし、彼らのようなギターロックを鳴らしたいとその後ギターを手にしたとかしないとか(ではなぜ20歳の僕はオアシスのカバーばかりやっていたのだ?)。The Viewの登場に刺激を受けたと語る彼らもまた、The Strokesの子どもたちだ。そのカッティングギターやリズムの展開など、シンプルに見えてそれでもこの国の予定調和なポップソングとは異なる自由さに可能性を感じたという原体験を持つこの若者たちは、憧れのアルバート・ハモンドJr.の指揮のもと、軽やかに自分たちの信じるかっこ良さを鳴らすことに成功している。
31. Ducktails / Jersey Devil
- アーティスト: Ducktails
- 出版社/メーカー: New Images Limited
- 発売日: 2017/10/06
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元Real Estateのギタリストに寄るプロジェクトの新作。そのReal Estateの新作は、彼の不在を感じさせるものだった(不祥事での解雇らしいので致し方ないところではあるのだが…)。さて、前作ではアートワークおよびラストの展開からvaporwaveの影響をかぎ取ったものだが、今作のアートワークを見る限りそれもきっと思いすごしではなかったのだろう。日本の80年代のポップスなどにも興味を持っているとのことだが、それもきっとvaporwaveの文脈からではなかったか、と思う。全編通して幽玄なトラックに人懐っこいメロディラインがのっており、キャッチーな佳作に仕上がっている。そこが彼の手腕、といったところだろうか。