2017年6月5日の断片日記と解題

▼昼間の不快な空気をさらってくれる夜風が心地よいので、最寄駅に着いてから遠回りして帰ってばかりである。歩く歩く。そしてフィジカルの声に耳を傾けるようにしている。冬のころはもっと精神的な部分での要請が大きかった気もする。もちろん今もそれはゼロではないけれど、もっとずっと身体的であるなと思う。
 
 
◆というわけで(どういうわけだ)解題をやってみる。あこがれ。
  
1.青葉
 
根を張った青葉を冠しこの土地も皐月の折は君たちの街
 
 
・「この街は僕のもの」の感覚を昔岸田繁氏に教えてもらった。以前住んでいた街などは、その後誰の街になったのだろうということを思う。今のこの街に住み続ける理由は無くなってしまったし、夜に改札をくぐった時に拒絶を感じることもあるのだけれども、それがこの街が君たちの街になったことの証左でかつ、まだぎりぎり許されているならばまあ住み続けるのもいいのかな、なんて。たとい君たちがどの街を「わたしたちのもの」というふうに考えていたとしても。
 
 
 
2.くつ(靴、屈、窟など他の読みかたも可)
 
お別れに急かされあの娘ブレザーで「私のためよ」くつくつわらう
 
 
・昔、くつくつと笑う教え子がいた。普段はしない格好(卒業の日だった)で僕のところにわざわざ来てくれた教え子が。似合っていたので素直にそんなことを言ったらば「あっち行って」みたいなことを言われた記憶がある。あなたから来たのでは…。その2年後にも遊びに来てくれて、その後はとんと音沙汰もないのだが、進路の相談でと久しぶりに訪れてくれたまた別の教え子が、「この前電車で会ったけどめちゃくちゃ美人になってたよ」と教えてくれたのだった。彼女たちにもいろいろあった。そしてこれからもいろいろあるだろう。くれぐれも幸福な人生を送ってほしい。
 
 
3.カーネーション
 
J-wave今月のパワープレイはカーネーションで「愛のさざなみ」
 
 
・これがパッと出てきてそれ以上動かなかったので。31音のフレームの有無は人生をどう変えるのだろうか。
 

カーネーション  愛のさざなみ
 
 
  
4.衣
 
川のそば夏売る店でふたりして歯に衣着せず青のりまとう
 
 
・「歯に衣着せず」と言いたかった。「歯に衣着せぬ」ではなく。「着せぬ」には培ってきた末の帰結を感じる。「着せず」には意志を感じる。それで、大阪湾にそそぐ川沿いの出店で過ごす2人には意志と青のりをまとってもらったわけです。僕にしては驚くほどハッピーなフィーリングだと思う。ゆえに漂うフィクション感。安っぽいかな、どうかな。軽薄さは真実。
 
 
青い白衣が着たいのと面接を受けるあの娘は夜更かしばかり
 
 
・「"青い白衣"ってそれはもう…」と話す僕に対するあの娘のリアクションは確かにまっとうで、でもその瞬間あの娘が君ではないことを痛いほど感じたのだった。それまで2人を比べたりなんてしなかったのに。その自分の行いがショックだったし、いつまでブンガクのやうなことを…と思ったのもまた事実だった。その日の帰り道では君の「言葉を大切にしないってたとえば?」と「どうしてお帰りなの?」がずっとリフレインしていた。
 そもそも…僕はそろそろ夜を使い果たすころだとそう感じてもいたので、夜更かしやコーヒーの飲み過ぎにゃ気を付けなよとあの娘にどこかで言うつもりだったのだろうなと今となっては思う。のだった。
 
 
5.夕凪
 
夕凪に吹かれて香る丑の日に祖父の戦争トーク遠くへ
 
 
・夕凪というのは風の質が変わるタイミングでの無風のことを言うので、本来「夕凪に吹かれる」というのはおかしな話ではある。でもたとえば住宅街のお風呂の香りやカレーの香りというのは、風の有無にかかわらず「吹かれて香る」類のものだという感覚が自分の中にある。そして外で食べるうなぎの香りもそこに含まれている。
 そうした感覚による言葉づかいだけが「夕凪に吹かれる」の理由ではない。もう亡くなってしまった祖父母は海で暮らした人たちで、「凪がいい」とか「凪が悪い」だとかそういう言葉づかいをしていた。幼いころによく釣りへ行っていた僕の中にある「凪」というものもやはり良し悪しを図るものだったように思う。無風をさす言葉が良い・悪いという形容をまとうことで海のコンディションを表すようになる、その揺れのようなものを「夕凪に吹かれる」という表現に込めたつもりだった。そして少年にとってつまらない戦争の話を吹き飛ばす夕凪は夕凪ゆえに吹かないのだけれども、うなぎの香りがそれすらもひっくるめて遠くへ運んでくれたのだ。うまい飯には2種類ある。会話が弾むものと黙り込んで夢中で食べてしまうものだ。
 
 
 
テーマ詠「運動会」
 
練習が毎日だもん授業中眠くなるのは仕方ないよね 


・職業柄かしら。僕にとって運動会というものは今やこのような立ち位置なのです。
 

次回チャンスがあればちゃんと参加したい。