重ねられた生活 20180113~20180119

0113(Sat)

出かける予定を考えているときだけが安らぎだ。素直に逃避だ、と思う。その先には多分何もないのに。ある種のドラッグのようなものなのかもしれない。
 
ティーンネイジャーの頃のそれはマネごとでしかなく、社会に出てすぐ君と出会ってしまったこともあり、一般的な恋の仕方がどうやら分かっていないようだ。うわ、文字にするときっついな。ええと…自分のしていることがどうにもそれとは違うところにまた足を踏み入れているような気がしてならないのだった。あるいは最初から。だからこんなことになっているのではないか。話しているうちに既視感のあるやり取りに何度も出くわす。I guess everything reminds you of something...もちろん、あの時と比べると圧倒的な穏やかさがここにはあるけれど。そのやりとりを受けては「自由と無限」のにおいをかぎ取る僕はそこに君の影を見てしまうのだった。どうみても似ても似つかない人のはずなのに、やはり結局はそういうことなのだろうかと思うと、なんともいえない気分になる。眠る間際にあなたは僕に「良き理解者」という言葉を使ったけれど、その言葉の意味を考えればやはり「つもり」は「つもり」でしかなく、同じことを繰り返す方向に足を踏み出していたのだということに嫌でも気づかされる。同時に僕が何を見ていたのかということに立ち返れば、「理解者」だなんて、そんなの当たり前だろとも思ってしまうのだった。
 
 

0114(Sun)

目が覚めて、暴力的な朝陽を浴びながら、それでもカンヅメで勉強しなければと思っていたのだけれども、あなたがくれたお菓子を咀嚼しているうちに、いや、少し遠くへ出かけようとそう決めた。耳元ではサニーデイが「あの娘がいなくなったら こんな仕事おさらばして 海の見える田舎町で自転車に乗って暮らそう」と歌っている。まったくだ、と思って少し混雑している車内で一員になりきる。
 
バイス上の地図に表示されているデータと、目の前の景色、そして肌に感じる情報とをリンクさせていく。どうせ思った通りにはいかないし、今日得たもののうちほとんどはまた長らく引出しにしまわれることになるだろう。だが、それも含めて楽しい作業だとは思う。同じものを見てもそれぞれが見ているものが違ってしまうことから逃れられないなら、その出発点となる「体験」だけでも共有できないか、そういう試み・企てのことを、考えている。
 
選択肢があるというのはすごいことだと改めて噛みしめながら駅から駅、路線から路線へと移動を繰り返す。駅やエリアによって「すみわけ」がなされていることの面白さを思う。都市と文化。学生時代を過ごした街は、考えてみれば駅を移動しようがなんだろうがそこを構成する人的要素に大きな偏りがなかったように感じる。同じような老若男女が、どこにでもいた。豊かさの尺度をどう考えるかという話にもなるだろうか。
 
 

0115(Mon)

労働。そして勉強。
 
 

0116(Tue)

人のことを強く思えば思うほど嫌いな人が増えていくし、嫌いな人が増えるたびに自分の嫌いなところも増えていく。ああいやだいやだと部屋に帰って『マンハント』の最終話を見る。カジンスキーのやっていることは当然罰せられるべきことではあるのだけれども、実話に基づいたものとはいえ、物語として造形されたであろうそのキャラクターには思うところがあるなと感じてしまった。ポール・ベタニーの演技がとても良かったのもあるだろう。
 
あなたに話したいことがたくさんあったけれど、そういうわけにもいかない事情が今日のそこにはあった。さかのぼること数十分前には、僕は罪悪感で消えてしまいたくなっていて、またその気持ちを本来抱かなければいけない人たちが抱いていないという事実の前に、静かにでも確かに憤慨していた。うまくいかない日というのはこういうものだ。
 
  

0117(Wed)

気遣いは、本来最も大切にしなければいけない自分をないがしろにする行為につながるから(そしてそのことや自分の優しさが年をとるのだということを身をもって知ったからこそ)、そういうのはいけないよという言葉を出しそうになりつつも飲み込んだ。結局それは響きのいい言葉ではあるけれど、その実、自分の何かを相手に背負わせようとするいつもの悪癖でしかないと思ったからだ。ましてや今回はちゃんと正規のあるいは少なくとも以前よりは普通よりの手続きでもって正式な返答をもらっているのだから、相手が設定した距離感の中で振る舞うのがルールのはずだ。そこから逸脱しないようにしなければならない。
 
僕の中では大事な人にしかしないようなことをあなたが僕にむかってする。それは価値観の違いなだけであって、あなたになって世界を観たら、全然違う意味がそこにはあるのだ。そういうこと、頭では分かっているはずなのに、感情がそれを邪魔するのであれば、それぞれの出処はやはり異なっているのだろうか。
僕の中では大事な人にしか言わないようなことを、あなたがぽろりぽろりと僕に向かって言う。そういうことは大切な人のためにとっておくんだよ、と諭す僕に少し不満そうにえーと笑う顔。言葉で生きたかったけれどその才能もなかったし努力もしなかった僕は、醜くも言葉の中で生きるようになってしまっている。何を言うかなんて、ほとんど問題じゃないはずなのに。夢を見させてもらっているとでも考えようか。かろうじて生きていくためにも。
 
 

0118(Thu)

労働に次ぐ労働。

 

0119(Fri)

受け答えをしながら、プロの技というか、「接客」てこういうことだよなあというのを感じていた。どこかに不安を抱きながらこの場にいるということをよく理解している動きだと思った。翻って、ふだんの僕はうまくやれているのだろうか。そして同時に、いま僕と話しているこの人たちにも人生があり、生活があり、家族があり、大事な人がいるのだということを思うと、この人をひとりの人間として大事にしなければ、という大仰な気持ちがわいてくる。客の立場いにいるときは客を演じてきた人生だから、何も考えずに客をするということはもう無理なのかもしれない。

病院に行って、相談をして、完治するまではだいぶかかる説明を受け、意を決して治療に臨む。痛みを伴うそれと、これから定期的に付き合っていく必要がある。僕にはやりたいことがあって、そのためには今後の人生の時間を少しでも長くする必要があるわけで、そのためには正しい判断だったのだと思いたい。ドカッとした支払いをカードでするたびに「大人になったのだなあ」と思う癖が抜けなくて、それはまだ自分が子どもであることの証であるように思える。

街に出て、今度のことについての下見を重ねて、どうにもこうにも決め手を欠くなと感じていた。決め手、というのは「これで喜んでもらおう」というポイントのことで、それがとにかくぼんやりしているというか…。その辺のピントが合わないと出かける意味ないじゃんと思うから、結構悩んでいる。僕は何だって楽しめるけど、相手の時間をもらっているということを忘れてはいけない。友人だと割り切るにはもう少し時間がほしい。でもこんな逢瀬を重ねていたら、どんどんそれが遠のいて行くような気もしてくる。

年間ベストの更新をはじめた。65枚だと切りが悪いので結局60枚にした。今週はここまで。
 

2017年BEST MUSIC 50-41

50. The National / Sleep Well Beast

SLEEP WELL BEAST [CD]

SLEEP WELL BEAST [CD]

 
この諦念である。「誰も悪くない」は本当にそうなのだろう。誰もがそれぞれの信念を胸に生きていて、それゆえに断絶していく。そんな時代にこの逆説の音楽はさびしく、その一方で力強く鳴っている。もうずっと元気のない大文字のロックにおいてずっと地に足がついていてかっこいいよ。

 

 

49. Waxahatchee / Out In The Storm

OUT IN THE STORM

OUT IN THE STORM

   
Iを歌うことが世代を代表するWeになっていく。そのことを体現した前作から2年、Kurt Vileらの作品を手掛けるJohn Agnelloを迎えての新作ではよりスケールアップした彼女の歌声を聴くことができる。サウンドはよりオルタナに、でも紡がれる言葉がフォーカスしている感情は普遍そのものである。ある意味ではこれまでのキャリアの総括といった趣のリリカルさではあるが、その逞しさと同時にクレバーなところが見え隠れする、好盤である。
 

 
 

48. Songhoy Blues / Résistance

Resistance

Resistance

 
マリのソンゴイ族の4人組が鳴らすアフリカンブルーズ。トーキョーの僕らもマリのナイトライフ賛歌で踊ろう!
 

 
 

47. Land Of Talk / Life After Youth

LIFE AFTER YOUTH

LIFE AFTER YOUTH

 
前作より実に7年ぶりの3rd。シンセやプログラムループから組み立てられた楽曲のおかげでギターの鳴りがこれまでと比べて空間的に。それがニーナ・パーションへ接近したあの頃と全く変わらない声色とよくマッチしている。制作には、感動的な『Are we there』に続く新作が待たれるSharon van ettenも参加している。納得の仕上がりである。
 

 
 

46. Jay Som / Everybody Works

Everybody Works

Everybody Works

 
オークランドの女の子、22歳。歌モノSSWではあるのだけれども、90年代のUSオルタナで鳴っていたサウンドの懐は深い。ヨラテンゴが聴こえる…!。
 


 

45. Mura Masa / Mura Masa

Mura Masa

Mura Masa

 
UKの新人が豪華客演陣と奏でる瑞々しいポップサーカス。僕らのチャーリーXCXとの「1 Night」、A$AP Rocky「Love$ick」など名刀のごとき切れ味。
 

  
 

44. Courtney Barnett & Kurt Vile / Lotta Sea Lice

LOTTA SEA LICE [CD]

LOTTA SEA LICE [CD]

 
前作でかきならしたオルタナ世代へのブルーズで、一躍スターダムへと駆け上がったCourtney BarnettとカルトヒーローKurt Vileのコラボ作。この組み合わせから想像できる音と全く相違がなくて笑ってしまった。よいUSインディーミュージック。晴れた日のドライヴにも。
 

   
 

43. Big Thief / Capacity

CAPACITY

CAPACITY


Adrianne Lenker率いるブルックリンのフォークバンドの2枚目。オーセンティックなサウンドとうすくリヴァーヴのかかったヴォーカル。派手さはないが、ミニマルな展開の途中にこぼれおちる感情がよい。
   

 
  

42. Phoebe Bridgers / Stranger In The Alps

Stranger in the Alps

Stranger in the Alps

 
LAのSSWの1st。Ryan Adamsの目に留まるだけあって、シンプルに良かった。ジャケもステキ。
 

 
 

41. Moonchild / Voyager

Voyager

Voyager

 
ネオソウルの注目株。そのらしさをリズムから感じ取れる部分もあるけれど、 ここ数年のブラックミュージックの隆盛においてリズムやビートに身体を揺らされていた僕も、ひたすらなこのメロウさに身を委ねてしまう。ヴォーカルも1つの音として組み込んだかのようなサウンドテクスチャーが心地よく、面白い。