重ねられた生活 20180120~20180126

0120(Sat)

学生としての1日。試験を受けてきた。これが思ってた以上にできなくて、でもそれがなんだか嬉しくてニヤニヤしてしまう。なるほどこういうことか、ということが分かったのと、これもいつかできるようになるのだというワクワクがそこにはあった。暗くなるまでキャンパスで過ごして、それから街に投げ出されていく。自分よりも大きなものの一端に触れている。そのことの高揚が僕を歩かせた。夜風は確かに冷たくて、街には関係があふれかえり、信号の待ち時間は長かった。過ごし方が変わって、過ごす場所が変わって、思う人が変わっている。未来を生きよう。過去にしか未来はないにしても。
 
 

0121(Sun)

やるべきことをやった1日で、そうしたらやりたいことに少しだけの問題が生じてしまった。
 
 

0122(Mon)

天候が悪いとよけいに仕事場の最寄り駅のナンセンスな設計が(そこにはいろいろな理由があるのだとは思うのだけれども)浮き彫りになって気分を害す。昼ごろに強くなりだした雪はあっという間につもってしまった。こりゃ帰りは面倒なことになるなと思いつつも、まあそれでも帰れないということはなさそうだから、ひとりずつ同僚を見送っては、帰宅のピークタイムを避けるようにして(つまりはいつも通り働いたということだ)仕事を片づけては、何時に着いて何時に出発するつもりだったのかすっかり分からなくなってしまった電車を乗り継いで帰路に着いた。
 
あなたとやりとりをしながら、雪が彩ったそれのことを思っていた。関係性に名前がなくても、お互いのことを知りあうことはできるのだ。距離をつめてしまったがゆえに距離をつかみ損ねているような会話をしては、お互い「年相応」とはかけ離れているねと笑いあう。この人の持っている自由と無限を肯定できて良かったと思う。君のそれと似ているようで根本的に異なっているはずの。いつか言語化できたら素晴らしいことだと思う。
 
 

0123(Tue)

2人にしか分からないことでくすくすと笑い合っていた。僕らの仲が、はたから見ても良好に見えるようなことを指摘されて、また曖昧に笑う。それでも僕らしか知らない出来事が確かにそこには横たわっているのだった。それについては妙なこともあるものだと思うのだが、わけのわからない方向に小走りで行ってしまってはふにゃふにゃと笑う彼女を見てはしょうがないなの季節にまたいることを自覚する。思えば、君と過ごした日々の中にも「仲睦まじい」と形容された時間が確かにあった。
 
お待たせ、の声をかけながら野暮なことを聞いてしまいたくなる欲求にふたをする。あなたの街に関するたわいもない話に切り替える。寄りかかり、それを自覚しては立て直し、記録的だという寒波の前髪と僕らの関係性の輪郭に眼を凝らしながら別れた。
 
部屋に戻ってNetflix「このサイテーな世界の終わり」の第1話を見て、なんだか感激してしまった。思春期特有の過剰な自意識と正統派ロードムービーな旅立ちもそうだけれども、何よりもガールフレンドを連れてきた息子に対して「よかった。ゲイかと思ってた。それでもいいんだがな、もちろん。」と理解者を気取る風を見せる父親に「私がゲイで、彼がアセクシャルかも。最近は色んな人がいるわ。」と女の子が返す場面が最高だった。いつだって正しい時代感覚を持ってるのは若者だ。そう思う。
 
  

0124(Wed)

のんびりと進む電車の中で隣り合わせで揺られている。似ているところ、似ていないところの両方を知りあっていく。窓に映る姿、以前とは全然違うように見える。色んな感情をわきに置いたとしても、この人のことを知りたいと素直に思った。以前は君の中に僕のたどり着くべき場所へのヒントを探していた。そうではなく、この人自身を知りたい。そう思うこと自体はとても普通なことだ。むしろそれが先に来なければいけなかったはずなのだ。だからこそ、今日の7駅分は自分には大きな意味があったように思う。「優しくし合うことが許された」関係性というものを欲さないではないのだが、現状のルール下でやれることをやるしかない。それまで2人で冗舌に過ごしては笑い合っていたのに、別れ際はただ黙って視線を合わせ直したというのはルールの範疇だったのだろうか。
 
1時間ほどかけて自宅とはぜんぜん異なるところへ降りる。終電までの限られた時間をつかってあちこち歩く。目の前の景色が、数日後には全然違うふうに見えているはずだ。良い時間になりますように。願わくば、ルールが拡張していくほどの。
 
 

0125(Thu)

自分の限界が見える。無理をして拡大に賭けるかもしくは壊れるかを試すべきなのか、クオリティを落としながらうまくやる方法を探るべきなのか。曲がり角である。若さにはそれだけで価値がある。でも若い人にいろいろやってみろとか無責任なことを言うつもりもなければその時間を俺にくれ!という願望をぶつける気持ちもない。どうせそうであったとしても、自分が自分であるのならば同じようなことになっているはずなのだ。受け入れること。その「受け入れ方」というものを問われているのだ。
 
  

0126(Fri)

年間ベストの更新も終わったことだし、disc2的な話をしておこうと思う。毎回そうなのだけれども、あれは単純な好みで並べているわけではなく(もちろんベースはそうだけど)、振り返った時に自分にとってその年がどういうモードだったのかが分かるように、ということを考えて並べている。だから単純に聴いた回数とかで並べ直すと全然ちがう風景になるのだった。根っこの部分の人づきあいに対するスタンスとか、億劫さ、臆病さそういったもろもろのことは変わっていないのだけれども、君と本当に離れてしまったことによって消失してしまうのだろうと思っていたこれまでの命の遣い方が、対象と温度を変えても続いていくことが分かって、なるほどこれが僕の生きる作法なのだなということを愛憎入り混じった感情で見つめた2017年。自由を求めるということと、それには尊厳だけでなく「場所」が必要であること。そんなことを考えていたのだなと、この並びは僕に教えてくれている。本当に面白い。今週はここまで。
 
etlivsfragment.hatenablog.com

2017年BEST MUSIC 10-1

10. SZA / Ctrl

Ctrl

Ctrl

   
TDEの紅一点、SZAの1stフルレンス。ムーディなオルタナR&B、ヒップホップ、ネオソウルの快作。シンガーとしてだけでなく、ソングライターとしても素晴らしい。収録曲「The Weekend」のリミックスで、『Funk Wav Bounces』はちゃんと続いていたことが確認できるというオマケつきである。(だがそれも、年が明けてからのカルヴィンの発言で夢と消えるのだが)
 

 
 

9. Lorde / Melodrama

Melodrama

Melodrama

 
ときどき自分は女の子なんじゃないかと思うことがあって(それは正確に言えば、だれしもに男の部分と女の部分とそのどちらでもない部分があって、身体的・機能的な性別とはまた別に、マインドの部分でどちらが大きくなるのかという話で、それは日によるし、もっといえば時と場合による)、それは女の子に向けられた作品にどうしようもなく胸を打たれるときに、強く感じる。
 
ポップスターとなったことを引き受けつつさらりとその舞台から降りてきて、女の子たち(そしてそれはインスタ映えしない市井の女の子たちにだ)に語りかける。それが前作と比較して大きく陽性の輝きを放っているトラックに乗ったとしても陳腐にならないそのリリシストとしての才覚、誠実さ、正しさのようなものを聴くにつれ、僕は女の子たちの尊さやしんどさ…そういったものを思い、やはり僕は男であり、彼女たちにはかなわないなとそう思うのであった。でもそんなつまらないものを超越したところから、どうしようもなさすぎてメロドラマのようにすら思える日常において―かつて人生はクローズアップで見れば悲劇、ロングショットで見れば喜劇だとチャップリンは語ったが―理想の場所は何処にある?とLordeは問う。その重さを、受け止めきれるだろうか。
 

Lorde - Perfect Places
 

 
 

8. サニーデイ・サービス / Popcorn Ballads

Popcorn Ballads

Popcorn Ballads

  
この国における2017年最良のラップ/ファンク/ポップアルバム。トラップも聞こえる。それでいて日本にもようやくサブスクリション元年が訪れたことを告げるエポックな1作。ずっと信じてきたアーティストがこうして海外とも共振しながら第一線でやってくれていることに喜びを感じる。当初配信のみであったこの音源は、幾度もバージョンアップを重ね、フィジカルでのリリースを機に曲順も入れ替え、新曲を交えた全25曲の「完成版」としてドロップされた。様々なジャンルの混交が見られる2017年のポップミュージックが詰まった作品であり、そのリリースの形態から考えてもそれぞれの気にいったところを…という聴き方ができるはずなのに、区切りを示す針の音、disc2のラストにrepriseとしてのトラックが入っているということ、そしてフィジカルリリースというモノを通しての体験が1つの完成であり、そこからそれぞれの物語が始まっていくという流れは、まさに「アルバム」然としているといえ、僕はそこにどうしようもない愛着を覚えてしまう。そしてこの2枚組がこの雑多な内容でありながらアルバムとしての強度を保っている(そしてそれはホワイトアルバム的なものとも異なっている)のは、何よりも曽我部氏の「うた」のおかげなのではないかと思えてくる。傑作である前作『Dance To You』の方がメロディとしては歌心にあふれているが、今作でその「うた」について感じるというのも面白いものである。客演のメンバーのパフォーマンスも素晴らしく、disc2のハイライトである「はつこい」では我らが泉まくらが"らしい"フロウを聞かせてくれている。サニーデイは2018年3月にはさらに新作のリリースが控えている。時代だ。
 

Sunny Day Service - クリスマス【official video】
 

 
 

7. St.vincent / MASSEDUCTION

マスセダクション

マスセダクション

 
せいけんのふはい!せいけんのふはい!はい!!異質であることを隠さなかったポップスター達が時代の転換期に次々とその役目を終えたとばかりにこの世を去る中で、前作のアートワークで玉座についたアニー・クラークは、 そのバトンをいざ引き継がんとフェティッシュな衣装に身を包み、ストレンジなギターをかきならす。作品ごとに過去の自分を更新していく女王に「Fear The Future」なんて言われたら僕達シュガーボーイはああ!どうしたら~。(これを書いているのは2018年になってからなのだが、実はこの作品は2018年の作品だったのではないのかと思っている。僕はいったい何を言っているんだ?18年の年末に振り返った時に、どうなるか見てみよう)
 

 
 

6. Alfa Mist / Antiphon

Antiphon [日本限定盤/ボーナストラックのダウンロード・コードつき]

Antiphon [日本限定盤/ボーナストラックのダウンロード・コードつき]

 
UKはイーストロンドンの新鋭。盛り上がりを見せるサウスロンドンのサウンドとはまた異なったヒップホップや昨今のネオソウルの流れをくんだジャズミュージック。オールタイムフェイバリットにはJ Dillaなどを挙げていることから音楽性は想像できるだろうか。ジャズソウルの潮流で聴くことも可能だが、跳ねるようなスネアの先にはもっと広大な奥行きが広がっている。


Alfa Mist - Keep On | 4K Mahogany Session

  
  
 

5. The Big Moon / Love In The 4th Dimension

ラヴ・イン・ザ・フォース・ディメンション

ラヴ・イン・ザ・フォース・ディメンション

 
何度でも言うけど、やっぱりさ、このたたずまいと面構えが最高じゃない?ロンドンの女の子4人組から放たれる目覚めの一撃。メロディアスでエモーショナル。ポップ黎明期のガールズグループのようなコーラスワークが琴線に。遠吠えや(アオー!)、ヴォーカルの声の切れ端がよい。くぐもった録音も実によい。とにかく全部良い。ロマンだ。
 

The Big Moon - Cupid
 

The Big Moon - Silent Movie Susie
 
 
 
  

4. Equiknoxx / Colón Man

Colón Man

Colón Man

 
ジャマイカのダンスホールデュオによる新作。ところどころにインダストリアルで不穏な響きを交えながらもそれはまごうことなきダンスミュージックとして鳴っている。ジャマイカの物語に登場するパナマ運河建設に関わった労働者からとられたタイトルが、ジャマイカの音楽の歴史をそして自らの革新の歩みを表しているという。なるほど、わからん。
 

  
    

3. Suplington / Repeating Flowers

Repeating Flowers

Repeating Flowers

 
一時期レーベル投げ銭(そんな言葉あるのか)するほど好きだったCult Classic Recordsから発表された13年の『Risky Times』からファンになった、ロンドンのNakula Foggによるプロジェクトの新作。リリースはYoung bloodsから。ヒップホップ要素はほとんどなくなり、上質なアンビエント空間が続く。トライバルなビートが聴こえる瞬間もあるけれど、土着のそれはフィールドレコーディングされたと思しき音たちや浮遊感がありながら現実性とリンクしている上モノとよくマッチしている。考えてみれば自然というのはその連綿と続く歴史(それは過去にも未来にも伸びている)の中にミニマルなものを宿している。そのことに気づかせてくれる主題であり、音像である。花の成長や雲の流れなどを早送りの映像で見せられるとき、僕は神々しさと静謐さをそこに覚えるが、この作品はその心もちのサウンドトラックともいえる仕上がりになっている。
 

 
  

2. Aldous Harding / Party

Party

Party

 
はじめて聞いた時、Benjamin Wetherillのようだなと思った。極めて音数が少ないのに迫力がすごい。鬼気迫るような絶唱というわけでもなく、抑制の効いた歌唱であるにも関わらずこの情報量である。きっとそれは彼女の表現が死生観など人間の根源的な部分によって立つものであるところからきているのだろう。いわばスタイルではなくアティチュードとしてのゴス。最初の一音から最後に薄く差し込まれるストリングスまで、静謐さと気品にあふれている。
 

Aldous Harding - Imagining My Man (Official Video)
 

 
 

1. Loyle Carner / Yesterday's Gone

Yesterday's Gone

Yesterday's Gone

 
サウスロンドン出身のグライムも90年代のUSヒップホップも飲み込んだ新世代ラッパー。ジャズやソウルを下地にしたムードと語るようなフロウは自身が触れてきた音楽に忠実で誠実である。そしてクウェズの参加が全体のムードに色を加えている。母親と継父が登場するラスト曲、そしてジャケットに顕著なように、全編通して家族の肖像が描かれている。家族というものに疑義を抱き続けたこの数年を経て、いろんな人の家族になりたいとそう思い始めた僕にとって、意味のある響き方をした1枚だった。