2017年BEST MUSIC 30-21

30. Charlotte Gainsbourg / Rest

Rest

Rest

 
やはりフランス語の魔力というのはすごいなと思わされる。姉の死を経ての心境の変化と今作のプロデュースを務めたセバスチャンの進言により、母語であるフランス語で作詞され、その彼女の言葉というものがちょうどいい熱量で音にのっている。そしてポール・マッカートニーダフト・パンクのギ・マニュエル、オーウェン・パレットなども華を添えている。フレンチポップとエレクトロの見事な融合。自身と向き合ったそのサウンドはルーツなき者には力強くもあり、切なくも響いてくる。
 
 
 
 

29. Kitty, Daisy & Lewis / Superscope

SUPERSCOPE [帯解説・歌詞対訳 / ボーナストラック1曲収録 / 国内盤] (BRC552)

SUPERSCOPE [帯解説・歌詞対訳 / ボーナストラック1曲収録 / 国内盤] (BRC552)

   
「ブロッコリのテンプラ」というジャム曲が入っていて笑う。早いもので彼らもデビューから9年。ミック・ジョーンズがプロデュースした前作からセルフプロデュースに戻った今作では音数を減らしてライヴ感を増す方向性に再度シフト。そのゴキゲンなサウンドからはストーンズもブッカー・Tも聞こえてくる。それってつまり大好物!!そして(残りの2人ももちろん良いのだけれども)華やかさと色気の増したルイスのヴォーカルは時々ジェリー・リー・ルイスに聞こえて、それってやっぱり大好物!!!
 

 
 

28. The Rural Alberta Advantage / The Wild

The Wild

The Wild

 
デビューから追っている、初期のArcade FireやBSSのようなサウンドを3人で鳴らすカナダのロックバンドの最新作。2011年の2ndの際に、その理想的なスケールアップを耳にしてこれはいよいよ世界的ブレイクか!とかひとりで興奮していたのだけれども、結局インディロックの範疇を出るわけでもなく、ここ日本においてもほとんど無視されっぱなしである。今作でもいつもと変わりなくバタバタとしたビートの上に人懐っこいメロディとねちっこくて暑苦しいヴォーカルがのっている。音もあまりよくないけれど曲がとにかくよい。シンプルな作品が息を潜めている時代において、こういう作品が継続的に出されているというのは価値があると思う。ラストまで30分強でかけぬけていくのもグッド。
 

 
 

27. Communions / Blue

Blue

Blue

 
コペンハーゲン発、2010年代のキッズたちのためのローゼズ、待望の1stフルレンス。80~90年代のファズギターに乗る少年性が残るヴォーカル。そう、これは少年と青年の間で鳴らされる音楽。 嫌みのない煌びやかな青さがまぶしすぎるぜ。
 

 
 

26. Cigarettes After Sex / Cigarettes After Sex

 
空が白んでくる頃、夜には確かに時間の流れがあるのだということを思わされる。とくにそこまで色のない時を刻み続けているからこそ、昼のそれよりも劇的なものとして、それでも夜というものの性質上、とても静かに実感されるのだ。そんな夜の時間の流れに対するサウンドトラック、それが米テキサスはエル・パソブレイキング・バッドだ!)発のドリームポップバンドの1stである。起伏もなくただひたすらにスロウでドリーミーなバックに中性的な男性ヴォーカルがのる。シンプルだがこれほど夜に効く音楽もあるまい。年齢も重ねて夜は眠るための時間になった僕にだって、胸を痛めて寝付けない夜くらいはある。そのとき、いつ始まってもいつ終わっても甘美な思いにひたれる音楽が隣にあるということは幸福なことだ。「Truly」からのラスト3曲は幽玄なまどろみであり、同時にSexのあとに訪れる少し苦みのある倦怠そのものである。
 

Truly - Cigarettes After Sex

  
 
 

25. Fleet Foxes / Crack-Up

Crack Up

Crack Up

 
Fleet Foxesの堂々たる帰還。6年ぶり3枚目。それはタテにもヨコにも自由な豊潤な音楽旅行の様相を呈している。潔癖さや崇高さはそのままに、閉じたところのない絶妙なバランスを手にしている。2枚目の苦しみ、意味があったね。
 

 
 

24. Puma Blue / Swum Baby

Swum Baby [Explicit]

Swum Baby [Explicit]

 
UKは確実に面白さを取り戻してきている。こちらはロンドンインディージャズシーンの新鋭によるEP。本来インディーロックシーンへと流れて行くような才覚によるジャズという選択。ジャイルス・ピーターソンの系譜とはまた異なった雰囲気がある。ローファイな夢。これは支持したい。
 

Puma Blue - Want Me (Official Video)
 

  
 

23. Mount Kimbie / Love What Survives

Love What Survives

Love What Survives

 
King Kruleが参加した「Blue Train Lines」に顕著なように、ビートメイカーらしい曲が並んだかと思うと空間を意識したテクスチャーで内省的に聞かせる曲もあり、その2面性から昨今の欧米の現状も感じてしまったりもする。トータルでポップな質感も確かにあり、とてもよいと思う。中動態、なんて言葉を思い出す。
 

   
 

22. Rat Boy / Scum

Scum

Scum

 
英国ポップミュージックの歴史を詰め込んだカオスの壺(そこにはBeastie Boysのステッカーが貼ってある! )。それを現状への不満と疑義をわめき散らしながら振り回す。こんな楽しいことがあってたまるか!グレアム・コクソンデーモン・アルバーンも参加。そう、Clash、BlurOasisArctic Monkeysまで。ときどき本当にまんまで笑える。そしてそこで描かれるのは幾度となく繰り返されてきたワーキングクラスからの訴えだ。ちくしょうが!!日本でも鳴れ!!!
 

 
  

21. 大森靖子 / kitixxxgaia

kitixxxgaia

kitixxxgaia

 
前作『TOKYO BLACK HOLE』はポップアルバムとしてだけでなくそのアティチュードの表明としても出色の完成度で、それが映し出しているもの(それはリスナーである僕らの心の中に映し出されるものでもあり、暴かれたものでもある)が巨大すぎてついに言葉にすることができなかった。そこにあったのは途方もないほどの肯定で、しかもそれは「そのままでいいんだよ」という陳腐なメッセージではなく「そのままでもいいよね」という誠実さをうちに秘めていた。そしてその次に放たれるのは、その肯定の発展形であった。
 
冒頭「ドグマ・マグマ」と最終曲「アナログ・シンコペーション」がこの作品を体現しており、この2曲だけで他のすべての曲よりも強度が高い。ラブオールがファックオールを生むからこそ、I LOVE YOUを重ねること―それは一人ひとりを肯定すること―が重要であるという視座の提示、人は誰しも自分が自らの神である(一方でそれとは別に神様はいるのだ)という宣言でこの作品は幕を開け、それぞれがそれぞれのリズムで鼓動(それがアナログシンコペーションだ)を刻むこと、それが、それだけが日々を輝かせるための唯一の方法であることを宣言して幕を閉じる。作品をつらぬくこの肯定。客演陣との様々に振れた豊かなアルバムにおいて、それが瓦解することなく作品として成り立つのは、この肯定への視座がそこにあるからだ。
 
そして彼女はかつての共感システムとしての消費のされ方をクレバーにかわしていく。「無料だからって外に出られる力があるんだったらいろいろもっとできると思うよ!」と観客に語りかけるのは、あくまで人生をゆくのはお前だぞ、という意識があるからである。そう、確かに彼女は弱者の味方であるが、弱者に寄り添うことはしない。君は自分が思ってるよりは強いんだよとそんな風に背中を押すのである。いや、正確には僕らが彼女の歌に中に自分を見出し(この歌あたしのことうたってる…!)、そして自分で歩き出すのだ。そういう構造がここにはあって、それは共感なんて言葉を軽々と越えていく。ご神体と化した「大森靖子」を通じて人生を乱反射させ、何かを受け取りなおし、歩き始めるための装置、それが「kitixxxgaia」の正体だ。彼女はこれからもその圧倒的な肯定を繰り返すのだろう。反復の中での受け取りなおしは未来へ、追憶は過去へ。ノスタルジーに中指立てたら、未来は明るい。
 

大森靖子「ドグマ・マグマ」Music Video/YOUTUBE Ver.
 

 
 

2017年BEST MUSIC 40-31

40. Japanese Breakfast / Soft Sounds from Another Planet

SOFT SOUNDS FROM ANOTH

SOFT SOUNDS FROM ANOTH

 
かつて哲学の始まりが宇宙と繋がっていたように、内省を極めるとSFにたどり着くのだろうかとそんなことを考える。母の死を乗り越えて立ち直っていく様を描く喪失と修復のドキュメント。そこにただようメランコリアは、だれしもが抱く人生への諦念と「それでも」に連なる意志から放たれるものであり、だからこそ聴き手の胸を打つ。

 
 
 

39. Beck / Colors

COLORS [CD]

COLORS [CD]

   
僕が海外の音楽に触れ始めた頃というのは何の手段も持たない田舎の子供だったから、自分が何をなぜ聴いているのかもよく分からなくって、それでもここではないどこかへの憧憬だけで興奮して夢中になっていた。あの頃、音楽誌などのキュレーターを通過せずに文脈もなにもなく聴いていたことをとてもよかったと思いつつコンプレックスでもあったりする。大学生になったときに(後に浮浪者のようになって留年していくことになる)山形出身の彼が「君が好きなのはオルタナだぞ」と『Odelay』を貸してくれた(『Mellon Collie And The Infinite Sadness』もだった)のがBeckとの出会いだった。そんなことを今作を驚きとともに楽しく聴いているときに思い出したのは、今作が紛れもなくオルタナティブであるからだ。そしてそれはたとえば90年代にその言葉が意味していたこととも少し趣が異なっている。レノン=マッカートニー体制の再構築にせよ、その多層的な楽曲構成にせよ、カウンターという枠組みではなく「メイン」を喪失した時代におけるオルタナティブとして機能している。それがこれだけポップに響いてくるのだから、さすがとしか言いようがない。
 

 
 

38. Daniel Caesar / Freudian

Freudian [Explicit]

Freudian [Explicit]

 
カナダのオルタナR&Bシンガー、待望のフルレンス。14年のEPをSound Cloudで聴いて以来楽しみにしていた。期待通りのムーディな1品。Kali Uchis、Sydら客演陣との相性も抜群だった。
 

 
 

37. Chaz Bundick meets Mattson Two / Star Stuff

Star Stuff

Star Stuff

 
我らがMattson TwoのトロイモアことChaz Bundrickとのコラボ作。いつものインプロ感はいくぶん後退し、かちっとした作品に仕上がっている。歌モノ。レイ・バービーとの作品ときのような爆発力こそないが、不思議な魅力のある1作。
 

 
 

36. 欅坂46 / 真っ白なものは汚したくなる

真っ白なものは汚したくなる (TYPE-A)

真っ白なものは汚したくなる (TYPE-A)

 
繰り返される「大人」という言葉は記号でしかなく、本質的にはこの国に蔓延する同調圧力と、それによって内部から蝕まれ老朽化したシステムや慣習などを指す。「大人」が消失した現代においては、抵抗はそこへ向けられてしかるべきものである。その表現の構造がどうであれ、不寛容な時代に風穴を開けるべくキッズ(古さとステレオタイプを大いに感じさせる言葉たちは、だからこそ表面的にはシンプルな意味内容だけを持つようになり、彼らへと伝播するのだろう)を啓蒙する姿勢は閉じて行く時代とこの国においては賞賛されるべきものだろうと「サイレントマジョリティー」における平手の先導を見て思うのだった(だがかつてジャンヌ・ダルクはどうなった?)一方で彼女たちが座しているのがアイドルという大文字の物語と偶像の世界であるというのがまた問題を複雑にしている。そう、「イメージを越えた」先にあるのは、結局はありふれた物語の範疇ではないのか…?それぞれが別の方向を見ながら1つのフォーマットに収まろうとするときに生じる歪みのようなものを、彼女たちを取り巻く「大人」たちはある種の美談としてプロデュースしそのドキュメントを見せることに成功していると考え、観客もまたその仕掛けの中に知らず知らずのうちに組み込まれているが、それそのものが本来彼女たちが破壊すべき対象ともいえる。望まれたように悲鳴なんか上げない(それは行動せよ、とのメッセージだ)と自らを鼓舞し続けた結果の「自我」によって、構造と駆動のパワーバランスが多重に崩れていくなかで、見えてくるものは何だろうか。
それぞれがそれぞれのために歌い、踊ること。アイドルになりたくて動き始めた彼女たちではあるが、その先(あるいは根底)には自由を希求する想いや自らを表現したいという欲求がなかったか。このプロジェクトは、状況を誰もコントロールできなくなってからが勝負だろうと思う。その時にそれぞれがこのフォーマットを維持しながらどこへ歩き出すのか。あるいは崩壊、もしくはスポイルされてしまうのか。この「アルバム」とはいえない(これはプレイリスト、だろう。時代とは別のところで時代と同期してしまっている)マテリアルが彼女たちの革命が自身を取り巻く状況だけではなく彼女たち自身をも越えて行く、そんなブレイクスルー前夜の苦しみとして記録されるのか、それとも終わりがあらかじめ決まっていたが故の興行として記憶されるのかは、歴史が語ることである。
 
  

 

35. Syd / Fin

Fin

Fin

 
いわゆる「性愛」に対する疑義が一般的になってきたとはいえ、それは愛に対する不安と、あるいはその曖昧な名づけによって隠ぺいされてきた何かをさらに奥底へと追いやってしまうような感情と極めて近いところにあり、だから一層問題を厄介なものとしている。人を一人の人として認めること。そのことを思うとき、sydの言葉が聞こえてくる。過剰さは排され、 ただひたすらに甘くメロウでモダンな夜の音楽。ジャンルを静かに横断する様と本人の佇まい、2017年が手にしたがった多様性の1つがここにある。
 

  
 

34. Laurel Halo / Dust

Dust [帯解説・ボーナストラック収録 / 国内盤] (BRC551)

Dust [帯解説・ボーナストラック収録 / 国内盤] (BRC551)

 
1st以来のヴォーカル作品(日本語の歌唱も聞ける)だが、それよりもフリージャズ的なインプロサウンドやパーカッションの鳴りがとても魅力的。ジャンルレスで不思議なポップチューン「Moontalk」を境にした後半でどんどん内省的になっていくのがよい。
 

   
 

33. フレンズ / プチタウン

プチタウン

プチタウン


20代のためのカラフルパーティーポップ。シティが究極的には文化を指すのであれば、タウンはもっともっと個によった風景だ。そこで描かれる悲喜こもごもを躁状態の音に乗せて行く。神泉系バンド、今作も切なく楽しい。竹内電気はこれをやらなければいけなかったのかもしれないね。そして30代の憂鬱な男の恋路も「夜にダンス」「夜明けのメモリー」に続く夜の3部作「NIGHT TOWN」とナイアガラなキラーチューン「原宿午後6時」によって性懲りもなく彩られたのだった。ちなみに"この"恋の始まりは「代官山午後6時」でした。こちらからは以上です。
 

フレンズ「原宿午後6時」
 

 
  

32. DYGL / Say Goodbye to Memory Den

Say Goodbye to Memory Den

Say Goodbye to Memory Den

 
ティーンネイジャーの頃にThe Strokesが登場してくれてよかった。僕はかつてジュリアン・カサブランカスになりたがっていたし、彼らのようなギターロックを鳴らしたいとその後ギターを手にしたとかしないとか(ではなぜ20歳の僕はオアシスのカバーばかりやっていたのだ?)。The Viewの登場に刺激を受けたと語る彼らもまた、The Strokesの子どもたちだ。そのカッティングギターやリズムの展開など、シンプルに見えてそれでもこの国の予定調和なポップソングとは異なる自由さに可能性を感じたという原体験を持つこの若者たちは、憧れのアルバートハモンドJr.の指揮のもと、軽やかに自分たちの信じるかっこ良さを鳴らすことに成功している。
 

 
 

31. Ducktails / Jersey Devil

Jersey Devil

Jersey Devil

 
元Real Estateのギタリストに寄るプロジェクトの新作。そのReal Estateの新作は、彼の不在を感じさせるものだった(不祥事での解雇らしいので致し方ないところではあるのだが…)。さて、前作ではアートワークおよびラストの展開からvaporwaveの影響をかぎ取ったものだが、今作のアートワークを見る限りそれもきっと思いすごしではなかったのだろう。日本の80年代のポップスなどにも興味を持っているとのことだが、それもきっとvaporwaveの文脈からではなかったか、と思う。全編通して幽玄なトラックに人懐っこいメロディラインがのっており、キャッチーな佳作に仕上がっている。そこが彼の手腕、といったところだろうか。