2017年BEST MUSIC 20-11

20. Spoon / Hot Thoughts

Hot Thoughts

Hot Thoughts

 
今「ロックバンドであること」に意識的でそこを更新していこうとしているのは彼らだけなのではないかとすら思える。そしてその取り組みはきっと他の追随を許さないところまで来ている。相変わらずのチャンネル振り分け、ソリッドなギター、そしてミニマルなリズム隊…そうした鳴りを意識したソウル・ロックなソングライティングはそのままに、他ジャンルからの要素を引き受けていく懐の広さ。それでいてそのフィジカル性は明らかにロックバンドのそれであり、彼らの誠実さの表れだ。未来はひょっとしてここにあるのか?
 
 
 
 

19. 泉まくら / 雪と砂

雪と砂

雪と砂


盟友であったnagacoにトータルプロデュースを託した前作から4ヶ月足らずでの新作。歌と語りとラップの間を揺れ動きながら抜き差しならない日常と都市の寂寥感を切り取っていく。15年のベストディスクの際に『愛ならば知っている』の項で「何者でもない若者たちの、日々の悲喜こもごもを泉まくらは語り続ける。棄てるなどしていたころから、あるいは卒業までにうとうととしていたそのころから、空虚さを展開することで逆説的にその関係性の濃密さを射抜いていた。そこをていねいに描き続けること、何者でもないことを真正面から受け止め続けること、そのことがお仕着せではない希望になっていくはずだ。」なんて書いたけれど、彼女はあの頃よりも抽象度の高まった表現を用いながら反転して僕らに本当のことを突き付けてくる。関係や感情が刹那的であってもそれを愛と呼ぶ勇気はあるか、と。
ラスト2曲「砂の城」「SNOW」はとてもよく、アルバム通しての最良の瞬間は幕が下りる寸前の「最後には優しくなって すべてがつまらなくなるなら 強くなれなんて言葉 鵜呑みにできないはず」というパンチラインに宿っている。
 

泉まくら 『SNOW』 pro. by nagaco
 

 
 

18. Jlin / Black Origami

BLACK ORIGAMI

BLACK ORIGAMI

   
折り紙の自由さと完成されたもの(それはきっと常に未完のものだとも言えないだろうか)のテクスチャーというものは、このJlinという作家そのものと、その手で生み落とされたアフロ・トライバルなパーカッションサウンドを言い表すのにベストな選択肢であるように思える。メロディーのほとんどないこのダンス・ミュージックを前に、音楽の根源的な意味を考える。
 

 
 

17. King Krule / The Ooz

The Ooz [解説・歌詞対訳 /国内盤] (XL872CDJP)

The Ooz [解説・歌詞対訳 /国内盤] (XL872CDJP)

 
声の才能。デビューしてから一貫して彼にしかならせない夜の音楽を鳴らしている。無駄を一切省いたストイックなサウンド。ポストダブステップからの大きな潮流には位置しつつもどこにも属さない、ジャンル・king kruleとも呼ぶべきその佇まいに息をのむ。
 

 
 

16. Cornelius / Mellow Waves

Mellow Waves

Mellow Waves

 
11年ぶりのアルバム(とはいえ様々なプロジェクトで活動は続けていたわけで、そこまで開いていたのかという感覚もあるにはある)は、メロウなテクスチャーをもった刺激的な1枚。オープナー、坂本慎太郎の作詞によるモダンブルーズ『あなたがいるなら』を聴き終えたときに押し寄せた感動は、忘れられない。音、言葉、すべての要素が僕の聴きたい音楽そのものだったからだ。こんなにもロマンティックで、でも平熱のラブソングがあるなんて。「あなたがいるなら このよは まだましだな」だなんて、言ってみたかった。(これはボウイのことを言っているらしいのだけれども)
その興奮とは別に、四方八方から聴こえる音のシャワーを浴びながら、きっとみんな中心を失うということが怖いのだろう、でもそんなものはじめからなかったのではないのか?と僕は思うのだった。そういうことを考えさせる音の輪郭がここにはあって、どうしようもなく琴線に触れまくるのだった。
 

Cornelius - 『あなたがいるなら』"If You're Here"
 

 
 

15. J HUS / Common Sense

Common Sense

Common Sense

 
本当に17年のロンドンは楽しかった。イーストロンドンのグライムラッパーによる1st。アフロポップにダンスホールレゲエ…それらの例をあげるまでもなく、真に自由な作品だ。
 
  
 
 

14. Clap! Clap! / A Thousands Skies

A Thousand Skies

A Thousand Skies

 
前作でブレイクを果たしたイタリア人トラックメイカーによるエキゾチカビート第2幕。今度はコズミックなサウンドを携えて、星空を越えて宇宙まで…といったたたずまいだけれども、なるほど夜空とひと口に言っても都市のそれと山奥のそれでは全然違うもんね。タイトル通りの一品。
 

     
 

13. シャムキャッツ / Friends Again

Friends Again

Friends Again

 
バンドサウンドの希求であった『マイガール』『君の街にも雨が降るのかい?』を経て、驚くほどに肩の力が抜けたポップソング集が世に放たれた。日本のリアルエステイトとも形容できるようなネオアコサウンド、バーズのようなキラキラとしたギターの音色。一方でリズム隊はたしかに前述のバンドサウンドを通過した力強さで全体を頼もしく牽引する。作品を貫くのは優しさと慈愛の視線で、「沈む故郷くらい 大したことないじゃんと思えるから不思議さ」なんて歌詞を故郷を失った者が「まあそうだよね」と聴けてしまうような、そんな温度がある。『Friends Again』という主題と共に、収録曲「Coyote」は徹頭徹尾(そうMVでさえも!)自分のことだと思ったけれど、本当は誰もが誰かのことを想っていて、ただそれだけなのに、いやもしかするとそれだけだからすれ違いつづけるのかもなとも感じるのだった。遠くの誰かを思って「きっと元気でいるね」、どうしようもなさを前にして「いつも通りやるだけ」そんな抑制のきいたエモーションを内側に飼いならす市井の人々に幸多からんことを。
 

シャムキャッツ - Coyote (Music Video)
 

 
  

12. Vince Staples / Big Fish Theory

Big Fish Theory [Explicit]

Big Fish Theory [Explicit]

 
クールなトラックとリリックから漂うのは現状への疑義と自由への野心。過去にはジェイムスブレイクを招へいするなどしていたように、エレクトロ・ソウルへの接近もみられる。それでいて、これは確かにラップ・アルバムである!
  

 
 

11. Dirty Projectors / Dirty Projectors

Dirty Projectors

Dirty Projectors

 
ついにメンバーも1人になってしまい、いよいよバンドではなくプロジェクトとしての側面が強くなった7枚目。そしてそのタイミングでセルフタイトルである。実験精神が高度なポップソングとして結実。ジャンルレスに多様でありながら整然と居並ぶ楽曲たちは、その実験精神が彼自身を押し進めてきたからこそたどり着いた未来であり、折衷こそが「ロック」であったと考える僕のような人間にとってはこの傷心アルバムは福音であった。タイヨンダイやソランジュらが参加している。グレイト。